[国際児のバックグラウンド]―メキシコ編―その1

国際児のバイリンガル 
― メキシコ編 ― その1
国際児のバックグラウンド

田中都紀代

  私のごく身近に、M子という13歳になるマルチリンガルのガキがいる。実を言うと、このM子は私が腹を痛めた子供である。腹を痛めた理由は、出産が泣く子も黙る帝王切開であったからで、普通のお産なら腹は痛まず、別の場所が痛むのではないかと勘ぐるのは、私が普通出産の素人だからであろう。

私のメキシコ人担当医は、帝王切開の「横切り」の名手とかで、「横切り」の利点を従来式「縦切り」と比較して説明してくれた。まず、「横切り」は日本伝統文化「ハラキリ」と同じようなもので日本人に馴染みやすい。(バカ!殺す気か!) 次に、名手の威信をかけて、ヘソのかなり下を小さく切るので、ビキニを着ても全く目立たない。(おちょくるな!ビキニが着れない体型と知ったうえでの発言か!?)以上の説明を受け、根が素直な私は「横切り」に同意した。

 後悔は「ハラキリ」の麻酔が切れた後にやってきた。腹痛のあまりトイレにも立てず、死ぬかと思う痛みの中で、「ハラキリ」の死亡原因を理解するに至った。「ハラキリ」とは麻酔なしでするものらしいので、死因は腹痛と想像される。だから「ハラキリ」を2度もする人物はいなかったのではないか。この貴重な結果を生かすべく、私の方も、2度とお産はしないことした。かくして、M子は、「横切り」の一人っ子になったのであった。            

ひと言お断りしておくが、「横切り」をすると、マルチリンガルの子供が生まれるという訳ではない。M子がマルチリンガルになったのは、両親が引き起こした偶然とその後のアフターケアによる産物、残物である。

 バイリンガル、マルチリンガルと横文字カタカナで言うと、何とも快く響くが、これを日本語漢語で書くと、二言語併用者、多言語使用者となり、麻薬併用者、薬物常用者と見分けがつかなくなる危険がともなう。横文字でウエイター、ウエイトレスはスマートに聞こえるが、日本語にして給仕、女給と呼んだら、張り倒されることだろう。スチュワーデスを辞典でひくと、旅客機女給とあったが、求人広告に「旅客機女給募集」と出して、若き女性が応募するかどうか疑問である。

 どうせ中身が同じなら、M子について語るには、薬物常用者と混同されやすい多言語使用者より、マルチリンガルにすることに私の心は決まったのであった。

ことの始まりは、マルチリンガル製造元の母親が、もう一方の協力者であるメキシコ人の父親と国際結婚したことにある。結婚しなくても子供ぐらい生まれることは、この年になれば私だって知っているし、ノルウェーでは結婚外の子供が全体の40%で、日本のように「私生児」を特別名称で呼ぶ意味が消えるほど多いことも知っている。「私生児」がノルウェーでどんどん増えると、そのうち「結婚子」という名称ができて、特別扱いされる時代がくるかもしれない。少子化で国家滅亡の危機と騒ぐ一方で、私生児がいじめをおこたらない国、と、子供は国の宝、生まれた子供は社会をあげて大切に育ててしまうのと、どちらが賢いのか。ノルウェーに日本式にいう私生児が半数近いのは、よほど社会が気持良く受け入れている証拠、というより全然平気、ただ普通のことになっているからだろう。どおりで、ノルウェーからは少子化国亡論は届いてこないわけである。

M子の製造元の母親は晩婚、晩出産で、製造に対する熱意欠如は明らかで、産婦人科で公式に宣言されるまで、お腹のはれも、いつもの便秘と思っていた。M子はこの家庭極秘情報を知ってか知らずか、「ママは何もすることがなかったから、私を生んだんだ」と、神をも恐れぬ発言をして、母親を毎日笑わせてくれる。そう言えば、メキシコでは子沢山の家族の説明は、「家にテレビがなかったもので...」と言うらしいが、出生の秘密に迫る真実と言えないこともない。しかし、「生むは易し
、育てるのは難し」という、もう片方の真実があるのも確かである。

 M子は両親の偶然性からメキシコでスペイン語、日本語のバイリンガルに育ち、4歳の時に、父親の研究の都合でアメリカに1年間生活する羽目になった。日本人の子供の1人もいない幼稚園で英語生活、家では母親と日本語生活を送り、メキシコへ戻って、スペイン語、日本語、英語のトリリンガルの子供に変身した。3言語を持続させて約7年後、またも父親の研究でドイツへ連れて行かれ、不運にみまわれた。当時12歳だったM子は、楽しい学校、友達と別れるのをいたく嫌がったが、「ドイツへ行けば、ソーセージがタラフク食べられる」という母親の名言で、しぶしぶドイツ移動に参加した。

 母親の言葉にウソはなかった。ドイツでは見事にソーセージを食べまくった。ドイツの主食はソーセージかと思うくらい、スーパーでも、家庭でも、レストランでも、ソーセージに面会しない日は一日となかった。道を歩けば、焼きソーセージの立ち食い小屋が約20Mおきに点在し、食べずには通過できない仕組みになっている。死ぬまでソーセージは食べなくてすむほど、食いだめしたせいか、メキシコへ帰ってからは、誰もソーセージを買おうとしない。ソーセージが脳にほど良く働いたのか、M子は無事ドイツ語で小学校6年生を修了し、かくてスペイン語、日本語、英語、ドイツ語のマルチリンガルとなったのであった。

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その2に続きます。

★書籍『バイリンガルになりたい、に子供をしたい、アナタへ』はOCSで買うことができます。メキシコ編、アメリカ編、ドイツ編での3冊セットでの販売となります。
http://www.ocs.co.jp/
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『バイリンガルになりたい、に子供をしたい、アナタへ』プロローグ

プロローグ

本書は筆者の娘M子17歳が日本語、スペイン語、英語、ドイツ語を習得した過程の記録と、家庭で出来るバイリンガル教育法の、具体的ノウハウの紹介である。
筆者で、M子の母親である私は、30年近く大学で語学教育に携わっているが、大学生に教室で教えるのに慣れてはいても、いざ、我が子供の語学教育となると、暗中模索、手探り、失敗の連続であった。なぜなら、自分の子供を家庭でバイリンガルするための、納得のいく「バイリンガル教育」手引書がなかったからである。
私とて、語学教育者の意地をかけて、「受胎告知」ならぬ、医師からの「懐妊宣言」を受けて、バイリンガル教育を思い立ったその日から、多数の「バイリンガル」と名の付く書物を読みあさったのである。だが、しかし、ほとんどが既にバイリンガルに成長した子供の、二言語間の使い分けなどの、外部からの研究書で、どうすればバイリンガルに育てられるのかは書かれていなかった。
かといって、日本の外国語学教育にも不安があった。日本の英語教育は長い伝統を誇り、近年ますます熱を帯び、幼児からのバイリンガル教育も盛んであるが、本当の意味でのバイリンガルに成長した例を知らないからである。失敗例はあっても、成功例の乏しい理由は、実に簡単で、バイリンガル教育に対する、偉大なる誤解である、という事に気がついた。それを無理やり一言でいうと、「外国語は母語の能力が基礎」という単純な真実となる。
この本は、この真実をモットーに、誰でも、家庭でできるバイリンガル教育を、日常の体験から具体例を山盛りにして、楽しく、おもしろく、やさしく、書いた「バイリンガル教育」マニュアルである。なお、本書は娘M子誕生から、日本語、スペイン語のバイリンガルになるまでで、英語、ドイツ語の修得過程は次書で紹介させていただく予定である。

本書は日墨協会広報誌に、約5年前から連載されているコラムの集大成で、日墨協会設立五十周年記念出版である。この間、掲載、編集してくださった日墨協会、助成いただいた在墨日本航空インターナショナルにこの場をかりて心からお礼の言葉を述べさせて頂きます。
また、水谷修名古屋外国語大学学長(叙勲「瑞宝中綬賞」)、西村六善地球環境問題担当大使、前メキシコ駐在大使には、本書に身に余る推薦文を頂き、深く感謝いたしております。

田中都紀代           
2005年8月 メキシコ市


★書籍『バイリンガルになりたい、に子供をしたい、アナタへ』はOCSで買うことができます。メキシコ編、アメリカ編、ドイツ編での3冊セットでの販売となります。
http://www.ocs.co.jp/


著者略歴  田中都紀代
早稲田大学文学部、筑波大学修士課程日本研究、日本語教師養成プログラム卒業
メキシコ国立自冶大学博士課程メキシコ史修了
国立国語研究所長期専門研修修了
国際協力事業団、筑波大学修士課程講師
メキシコ国立自冶大学国際交流基金派遣日本語講師
現在、メキシコ国立自治大学専任講師
主な著書、「日本語表現文型 中級I,II,」筑波大学                 
「日本語会話」国際協力事業団(JICA)       
「997語で読める日本語」北星堂                
「ラテンアメリカ 子どもと社会」新評論社

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田中先生のブログでの新連載がスタートします!

田中先生の新しい連載がスタートします!! 先生の著作『バイリンガルになりたい、に子供をしたい、アナタへ』を特別にこのブログで読むことができるようになります。

バイリンガルになりたい!我が子をバイリンガルにしたい!でも、英会話教室でバイリンガルになれた話は聞きません。それは本物のバイリンガル教育を教える側が体験していないからです。この本は長年大学で語学教育にたずさわってきた筆者が、我が子をバイリンガルにした実践、実話です。バイリンガルの第一歩は生活の場から!です。成功秘話をお届けします。

★書籍『バイリンガルになりたい、に子供をしたい、アナタへ』はOCSで買うことができます。メキシコ編、アメリカ編、ドイツ編での3冊セットでの販売となります。
http://www.ocs.co.jp/



著者略歴  田中都紀代
早稲田大学文学部、筑波大学修士課程日本研究、日本語教師養成プログラム卒業
メキシコ国立自冶大学博士課程メキシコ史修了
国立国語研究所長期専門研修修了
国際協力事業団、筑波大学修士課程講師
メキシコ国立自冶大学国際交流基金派遣日本語講師
現在、メキシコ国立自治大学専任講師
主な著書、「日本語表現文型 中級I,II,」筑波大学                 
「日本語会話」国際協力事業団(JICA)       
「997語で読める日本語」北星堂                
「ラテンアメリカ 子どもと社会」新評論社
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推薦文 西村六善 地球環境問題担当大使、前メキシコ駐在大使 

数年にわたり日墨協会広報誌に連載された「バイリンガル大作戦」の第一部が日墨協会設立50周年記念として、出版されることを、心から歓迎します。

日本の将来は世界の中で日本と日本人がどう羽ばたくかにかかっています。日本人がバイリンガルを目指すこと、それは日本が新しい世界で新しい大きな役割を果たす決心をすることです。
それによって、単に外国語を操れるだけでなく、外国の文化や価値をやさしい気持ちで理解しようとする日本人が増えることにもなります。

これがこの本の真の意義です。

海外生活での心配事の一つは、子供の言語教育だと思いますが、本書は、長年、大学で言語教育に携わってきた著者が、家庭の中で自分の子をバイリンガルに育てた実録書ですので、具体的な方法の紹介があり、バイリンガル教育に役立つ一冊と思います。

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